目次
はじめに
江戸から明治、大正時代へ。 瀬戸内海沿岸と四国山間に点在する街並み保存地区には、日本の古きよき暮らしが静かに息づいています。 どこか懐かしく、温もりのある町を歩く旅は、喧騒から離れた時間を取り戻すきっかけにもなります。 今回は、愛媛・広島・岡山・徳島・香川・山口・高知にある、厳選9つの街並み保存地区をご紹介します。
愛媛県・内子町「八日市・護国町並み保存地区」
木蝋産業の繁栄が残る町、白壁と格子の家並み
明治期に木蝋で栄えた町・内子。特に八日市・護国地区には、白壁と格子が美しい町家が立ち並び、今もなお当時の職人の技と豊かさが感じられる景観が保たれています。内子はかつて、木蝋や和紙などの特産物を全国へと出荷していた交易の拠点でもあり、町全体に商人町の名残と格式が漂っています。白壁の通りを歩けば、穏やかな空気の中にどこか凛とした気配が感じられ、町の人々の暮らしと文化がしっかりと根付いていることが伝わってきます。
見どころ:内子座(大正5年):現役の木造芝居小屋/上芳我邸:木蝋商の豪邸
アクセス:JR内子駅から徒歩10分/松山から車で40分
広島県・竹原市「竹原町並み保存地区」
“安芸の小京都”と呼ばれる黒塀の美しい町
竹原は「安芸の小京都」とも呼ばれ、江戸時代には塩田業や酒造業で栄えました。現在も残る町並みには、黒塀と格子戸が印象的な商家が並び、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。特に朝の静けさの中、石畳を踏みしめながら歩くと、まるで時が止まったかのような感覚に包まれます。竹鶴酒造に代表されるような酒蔵や、丘の上から町を見下ろせる普明閣など、歴史と風景が融合した竹原の町は、じっくりと歩きながら味わいたい場所です。
見どころ:竹鶴酒造/普明閣からの町並み眺望
アクセス:JR竹原駅から徒歩15分/広島市内から車で1時間
岡山県・倉敷市「美観地区」
運河と白壁、アートと和が融合する全国屈指の町並み
倉敷は江戸時代、幕府の直轄地として重要な商業都市に指定され、発展してきました。美観地区はその面影を色濃く残しており、白壁の蔵屋敷と柳並木が織りなす運河沿いの風景は、まさに日本的な美の結晶とも言えます。アートの町としても知られ、大原美術館をはじめとする文化施設が充実しており、芸術と伝統が見事に共存しています。夕暮れ時、川沿いを歩けば、柔らかな灯りとともに歴史の香りが漂い、旅人の心を穏やかに包み込みます。
見どころ:大原美術館/川舟流し/アイビースクエア
アクセス:JR倉敷駅から徒歩15分/岡山駅から電車20分
広島県・福山市鞆町「鞆の浦」
潮待ちの港として栄えた瀬戸内の町、風待ちの町並み
瀬戸内の海に面した港町・鞆の浦は、古来より潮待ちの港として知られ、万葉集にもその名が詠まれるほどの長い歴史を持つ町です。江戸から明治期の建物が良好に残り、石畳の坂道や町家、常夜燈などが港町の風情を色濃く映し出しています。多くの映画やドラマの舞台にもなっており、訪れる人の多くがそのノスタルジックな雰囲気に心を奪われます。港に沈む夕陽を眺めながら、昔の人々もこうして潮風を感じていたのだろうと思いを馳せると、時を超えた旅の喜びが胸に染み渡ります。
見どころ:常夜燈/いろは丸展示館/福禅寺対潮楼からの絶景
アクセス:福山駅からバス30分/車で約40分
徳島県・美馬市「脇町うだつの町並み」
“うだつが上がる”の語源、豪商の町家が建ち並ぶ
「うだつが上がらない」という慣用句の語源にもなった「うだつ」とは、隣家との間に設けられた防火壁のこと。脇町はこの「うだつ」を高く掲げた商家が並ぶ、全国でも珍しい町並みです。藍染や商業で栄えた江戸時代の風情を今に伝える建築が立ち並び、歩いているとその格式と文化の高さに圧倒されます。町並み資料館や、当時の商人の暮らしぶりを再現した展示もあり、建築だけでなく生活文化そのものを体感できるのが魅力です。
見どころ:藍商佐直邸(藍商人の屋敷)/うだつの町並み資料館
アクセス:徳島市から車で約1時間/JR阿波半田駅から車10分
山口県・柳井市「白壁の町並み(柳井古市)」
金魚ちょうちんが揺れる町、白壁の商人町
白壁と赤瓦が連なる柳井古市は、江戸中期から商業の拠点として栄え、今も当時の面影を色濃く残す町です。町を歩くと、軒先に吊るされた「金魚ちょうちん」が訪れる人を和ませ、柳井ならではの個性を感じさせます。小さな路地に入り込むと、そこには昔ながらの商店や町家が静かに佇み、どこか懐かしい空気が漂います。祭りの季節には町全体が色とりどりの金魚ちょうちんで彩られ、まるで絵本の世界に迷い込んだかのような光景が広がります。
見どころ:白壁の町並み資料館/国木田独歩旧居/金魚ちょうちん祭り
アクセス:JR柳井駅から徒歩5分/岩国から電車で約30分
香川県・東かがわ市引田「引田の町並み保存地区」
和三盆と醤油の香る港町、小さく静かな町歩きに最適
引田は江戸から明治にかけて、醤油と和三盆の生産で栄えた港町。瀬戸内海に面したこの小さな町には、格子戸のある町家や、今も稼働する醤油蔵が残っており、訪れるとほのかに醤油の香りが漂ってきます。商業で賑わった往時の繁栄を思わせる建物はもちろん、現代でも地域の人々が大切に暮らしを守っている姿に心打たれます。週末には和三盆作りや醤油搾り体験ができる施設もあり、旅の思い出づくりにも最適です。
見どころ:かめびし屋(醤油蔵)/讃州井筒屋敷
アクセス:JR引田駅から徒歩10分/高松市内から車で約1時間
高知県・佐川町「佐川の町並み」
土佐の小京都、学者と酒の町
佐川町は、幕末の植物学者・牧野富太郎の出身地としても知られ、学問と文化の町として発展してきました。町の中心には、商家が立ち並ぶ歴史的な町並みが今も残り、白壁と黒格子が美しい調和を見せています。町歩きの途中では、地元の蔵元による日本酒の香りが漂い、訪れる人を温かく迎えてくれます。牧野公園や記念館などの見学とあわせて、佐川の歴史と人情に触れられる旅は、知的好奇心と郷愁を満たしてくれる貴重な体験となるでしょう。
見どころ:牧野公園/牧野記念館/司牡丹酒造の見学
アクセス:JR佐川駅から徒歩圏内/高知市から車で約1時間
広島県・尾道市「尾道の坂の町並み」
石畳の坂道と海、寺と路地が織りなす町並み美
尾道は「坂と寺の町」として知られ、石畳の小道や急な階段が張り巡らされた町の風景は、まるでジブリ映画の一場面のよう。瀬戸内海を見下ろす高台には千光寺があり、町並み全体が美しい絵のように広がっています。文学と映画の町としても名高く、猫がのんびり歩く路地や、古民家をリノベーションしたカフェが点在し、散策するだけで心が満たされます。尾道水道に夕陽が差す頃、その情景はまるで時間が止まったかのようで、旅の終わりにふさわしい静かな感動が胸に残ります。
見どころ:千光寺/猫の細道/ロープウェイからの絶景
アクセス:JR尾道駅から徒歩/福山・広島からアクセス良好
おわりに
保存地区というと観光地化されたイメージがあるかもしれませんが、瀬戸内・四国の町々には、今も人の暮らしが息づいています。 静かな町並みを歩くとき、目に映るのは古い建物だけでなく、その場所に流れてきた時間と人の営み。 旅先で、ふと足を止め、古い格子戸に触れてみてください。 あなたの心に、どこか懐かしい風が吹くかもしれません。